西垣通

「情報とは何か」というお話をしましょう。これはなかなか難問で、専門家に聞いてもいろいろな答えが返ってきますが、まず、文と理の代表的な定義を上げておきましょう。 理系の代表が、シャノンの「ネゲントロピー」です。エントロピーというのは、熱力学、統計力学の概念ですが、ネゲントロピーはその援用で、システムがどれだけ秩序立っているか、その度合いを示します。例えば、今甲子園でA高校とB高校が試合をしている。で、どちらが勝ったか知らない状態では勝った確率はどちらも1/2です。ところが、誰かが「A高校が勝った」と結果を教えてくれたら、1/2と1/2の状態から1と0になり、安定した秩序ができます。それをもたらしたのは情報、というわけです。 一方、文系の代表が、ベイトソンの「差異を作る差異」です。これは「意味のあるものを自分で見分けていく」こと。これは、生命体はみんなそうです。例えばここにハエがいたとすると、ハエは私には興味は持たず、甘いものの方へ飛んでいきます。自分の記憶や経験に基づいて、意味のあるものをとらえる。これは主観の世界ですね。つまり、自分にとって意味のあるものが情報なのです。 一般的な定義はどうか、ということで広辞苑を引いてみると、2つの定義が出てきます。一つ目は、「ある事柄についての知らせ」と書いてあります。つまり、“不明なことを教えてくれるもの”ということですが、これは、シャノンの定義に近いですね。もう一つは、「判断を下したり行動を起こしたりするために必要な知識」。つまり、“主体の行動を促すもの”。これはベイトソンの定義に近い。